砂漠の夜の幻想奇談


「さて、湯浴みをするか?それとも食事が先かな?」

その時、唐突にサフィーアの腹が鳴った。

ぐうう、と情けない音が静かな居間に響く。

「あっ…」

恥ずかしさで俯いたサフィーア。

すると老人がクスリと笑った。

「食事が先だな。用意させよう」


有り難かった。

すぐさま運ばれてきたパン菓子や鶏肉にサフィーアの目が潤む。


(優しいな。私を商品として買ったのに…態度が、優しい…)


さっきのベドウィン人とは大違いだ。

サフィーアは傍に置かれたたらいの水で手を洗った後、パンをちぎって食べた。


(そういえば、さっき…シャールの名前が出たよね)


宿屋での会話を思い出し、サフィーアはぼんやり考えた。


(ここは、たぶんダマスだ。どうにかしてシャールに会えば助けてくれるかもしれない)