【美織side】

な、ななな、何されたの、今?

玄関のドアに体をもたれかけ、片手で唇を触った。

お兄ちゃんの親友龍之介さん。

しょっちゅう家に来ては、お兄ちゃんといろんな話をしたり、

出かけたり、仲がいいのは知ってたし、

私にも優しくしてくれていたけれど、怒った口調が、

時々冷めた眼差しが、なんだか怖くて、近寄りがたい存在だった人。


日本人離れした長身と、鍛えられてるのに、スレンダーな体つき。

その上、あのカッコよさは、更に私には近寄りがたかった。

憧れてるのに、手の届かない、雲の上の人のような、そんな人。


そんな龍之介さんが、私にキスをするなんて、夢じゃないだろうか?

何を思って、キスをしたのか・・・気まぐれで?遊びで?

それとも、もしかして、私を好き?・・・そんな都合のいい話はない。


沸騰しそうな頭を回転させ、色々考えるのに、その答えが出るはずもない。

龍之介さんの心は、龍之介さんにしかわからない。


…でも、私に触れた唇は温かくて、

もう二度と、忘れられそうにない・・・