こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 この男は一体どこまで知っているのか。フィリアムも驚くと同時に、またも頬に走った痛みに呻く。


「ほら、泣けよ?思い切り泣けよ。お前ぐらいならまだまだ小五月蝿ぇ泣き方すんだろ?」

「やめろ!」


 エルダンの叫びに呼応するように、狼が男に飛びかかったが、男は冷静に狼の身体を銃で撃った。その勢いで狼は飛ばされ、地に落ちた。その身にもう一度弾丸を食らわせると、男は獣のくせに生意気な、と呟いた。
 男は止まらず、フィリアムのことを殴り続ける。

 頬も鼻も痛い。口の中も痛い。
 鉄の味が口内に広がっていて気持ち悪い。
 だが、泣く気はなかった。

 ただ、この男の思惑通りになりたくない。その一心でフィリアムは堪え続ける。


「……ふむ、方法を変えようか?」


 既に数十回殴られたフィリアムの身体はグッタリとしている。それをその男は無造作に放り投げた。
 すかさずエルダンはフィリアムの身体に手を伸ばしたが、その手は弾け飛んだ。


「エル——っ」


 フィリアムは力無くエルダンのことを呼ぶが呻きしか返ってこない。


「やはり、読み通りか……ほら、泣かないと“エル”の体にもっと穴が空くぞ?」


 言いながら男はエルダンの脇にあった小石を撃った。


「……やめっ」


 朦朧とする頭で必死に立ち上がる。
 視界はぐらぐらしているし、ありえないくらい吐き気がこみあげてくる。