こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—





「外したか……」


 その声と共に、一人の男がするりと姿を現す。


「“禁じられた森”の中に本当にこんな場所があるとはな」


 男がいた。
 何の変哲もない。
 ただの男。

 ——普通の所にいればの話だが。


「不思議な所だ……外から隠された、まるで神域のようだ」


 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 その時になってやっと銀の円の正体に気がつく。


「お前らが噂の“森守”か?」


 男は嬉しそうに笑った。

 そしてフィリアムの髪に目を止めるとお前は違うな、と呟き、フィリアムの長い髪を掴んで立たせる。


「いたっ……」

「なんでこんな所に王の証がいるんだ?とうとう森守すらも狩ろうってのか?……糞どもが」


 髪を引っ張られる痛みで、矢継ぎ早にかけられる質問を聞いている余裕はない。
 ただ痛いと呻くフィリアムの頬に男は平手を食らわせた。


「フィオ!」



 エルダンは地に伏しながらも、フィリアムの方に手を伸ばす。
 そんなことには気付いていないのか、男はエルダンを見ることなく祠の方に目をやる。


「あそこに、巫女と創造主が……」


 エルダンの目がカッと見開かれる。その目に対しては何故か気が付いて、楽しそうに笑う。


「お前……一体なにもんだよ!」


 エルダンの質問に対し男は俺のことか?と自身の胸を指差した。


「俺は長年天上人への対抗手段を研究してきた者だ。様々な伝説を聞いてきた。そしてようやく辿り着いたんだ……天上人を消し去ることができるのは、創造主のみだとね」

「……だが、眠りを妨げることは誰にだってできない!」

「大人にはな」