こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 そのうちにある確信が芽生えた。


 未だ硬直したままのエルダンの横をすっと通り抜ける。


 そして、そっとその狼に手を伸ばし——


「巫女様のところへ連れていって」

「なっ——」


 そうお願いすれば、狼はゆるりと尾を振って、優雅に立ち上がった。


「お前何言ってんだ!?」


 エルダンはフィリアムの肩を掴み引き寄せる。
 掴まれた肩が熱く、痛い。
 だが、振り払うことはしなかった。


「ねぇ、お願い?」

「フィリアム!おい!!って!?」


 黒い獣は、一度の跳躍でフィリアムの横に立ち、驚きに目を見開くエルダンのことなんて歯牙にも掛けず。
 フィリアムの頬に鼻面を擦り付けた。


「連れてってくれるの?」


 黒い獣は応えるかのように、地に伏せる。
 背に乗れということだろうか。
 その狼の背は、フィリアムとエルダンの二人ぐらい余裕で乗れそうな広さがあった。

 フィリアムは何の躊躇いもなくその背に乗る。
 そして、エルダンの腕を掴むと無理矢理引っ張りあげた。


「お願い、狼さん」

「何考えて——!!」


 エルダンは掴まれていた手を振りほどくと飛び降りた。そのままの勢いで狼から数歩分下がる。


 その目は怒りで満ち溢れている。
 

「……一緒に来て?」


 頼んでもエルダンは頑として首を縦に降ろうとしない。