こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 ——つまりだ。
 主の御使いは神話なんかではなかったってことだ。

 そんな驚異の存在から、ただの子供である自分が敵うはずがない。


 逃げられない、本能で悟った。


 エルダンもそう思ったのか、目には諦めの色が浮かんでいる。

 指を動かした瞬間、殺られるだろう。
 あの牙に自分の骨が耐えられるはずも無い。

 唯一勝てるとすれば、魔法しかないが、こんな状態で魔法陣を書くなんて、そんな悠長なことをしていられるはずもない。
 そんなことをしている間に喉元にその狼は食らいつき、確実に息の根を止めるだろう。

 何か、方法はないかと思い巡らせた時、あることに気が付いた。

 狼に全神経を向けながら大樹の方を盗み見る。


 巫女ならこの獣をどうにかできるのではないかと思ったからだ。
 なんの根拠もない。ただ、特別な能力を持つ巫女という、その存在に勝手に希望を抱いただけだ。
 そして、縋るようにして見る。が、そこに人影はない。

 おもわず、え……と声を漏らした。
 さっき、エルダンは確かに呼んだはずだ。得意そうな顔で指笛を吹いて。
 だが、何度見てもそこに人影はまして、動くものもない。

 エルダンもそのことに気付いたようで動揺する。


「ミリア……?」


 囁くような呼び声は、予想以上に大きな響きとなって耳に届いた。

 だが、何も変化はおきない。