こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—





 フィリアムはそれを信じられないという目で見る。この世界は脂汗をかくほど、辛いところだろうか。

 眉を垂らしてエルダンを見ていると、エルダンはフィリアムの頭に手を置いた。


「気にするな」

「でも、……顔青いよ?」

「……ここまで清浄だとな、普通に生きてる人間は結構クるもんがあんだよ」


 お前にゃ関係ないみたいだけどな、とエルダンは分かってたような顔をして呟いた。


「ほんとお前には驚かされる」

「どうゆうこと?」

「……いつかわかるんじゃねーの?あいつの勘が間違ってなければ、な」

「え?よく聞こえなかった……もう一回言って?」

「なんでもねぇよ。今はそれよりも優先すべきことが他にあるから、ほら、ぼけっとしてんな」


 エルダンは、一度フィリアムの頭に手を乗せて乱暴に叩く。
 それの真の意味にフィリアムは気付かずに頷く。その影でエルダンの顔が安堵したのにも、気付かずに。


「そういえば、聞きたかったんだけど……どうやって呼ぶの?巫女様ってあそこにいるんでしょう?」


 指でさしたのは泉の真ん中に鎮座する樹のうろだった。

 長い時をかけて成長したその樹の根は太く、強く、地面から盛り上がり、土との間に大きな空洞を作っていた。
 そこに何かがあるのはすぐに分かった。そこにだけ、他にはない深淵があった。まるで形を知られないように暗い闇で覆っているよう。