こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—









 エルダンの後をついて樹々の間を飛ぶように駆けて、一時間たったか分からない頃、エルダンの足は緩んだ。
 そして、そのままエルダンの姿は消えた。
 ここも結界によって隠されているらしい。


当たり前か。


 ここから先は神域。
 神が——創造主が眠ると言われている場所を、外界に晒すわけにはいかないだろう。


 足を滑り込ませる。と、総毛立った。
 水の冷たさにじゃない。

 厳かな冷気に、背筋がゾクゾクとする。

 一度唾を飲み込んでからフィリアムは顔を前に向けた。


「————……っ」


 透き通り、何の波紋のない泉——いや、これは池といってもおかしくはないか。それぐらい大きい泉にフィリアムの目は一瞬で奪われた。

 その泉の中心に離れ小島のような丘があり、そこに立つのは樹齢億年を越える巨樹。
 長く伸ばされ地に着くほどしなった枝から、まるで世界を包み込むかのような錯覚を抱く。


 声なんて出せない。
 風の音も、樹々のざわめきもなにもないせかい。
 自分が出した声のせいで、この世界はバランスを崩し容易く壊れてしまいそうで、その場から動けない。


そんなこと、あるわけないのに……。


 それほどまでに、圧倒的で完成された美しい絵のような世界にフィリアムは心を奪われた。


 だが、先に入ったエルダンは、顔を歪めていた。


「いつ来ても辛いとこだな……くそ」


 エルダンの額には汗が浮かんでいる。