「昔の馴染みで泉の水汲んでもらえるよう頼んでやるから、一緒に来ないか?」
フィリアムは一瞬きょとんとしてから、エルダンの顔を見る。
「全然危ない橋なんかじゃないよね……?」
「危ない橋ってのは……まぁただ単に使ってみたかっただけだ」
「わざわざタメ作んないでよ」
「本当は今の時期巫女に会うとかいけないことなんだよ」
「じゃあ、ばれたらどうなんの?」
「大婆様に叱られる」
「……」
「なっ、お前は知らないかもしれないが、大婆様キレさせるとめちゃくちゃ怖いんだからな!?」
「……」
フィリアムの目がいたたまれなくて、ふいっと目をそらす。
その脇でフィリアムは神妙な顔つきで何かを思案した後、その誘いに頷いた。
「行きたい……です」
そうとなれば、即行動すべし。
「ほら、早く木から降りてこい」
「え、もう行くの?準備は??」
「準備なんて必要ねぇよ、こっから一時間ほどで着く。特に障害なんてもんもないしな」
フィリアムは分かったと頷くと、木からひょいと飛び降りる。その鮮やかな着地からは何の重さも感じさせない。それぐらい優雅で。
——マジもんの化けもんだな。
エルダンは心の中で呟きながら見上げる。自分の背丈の六倍は先にあるフィリアムが座っていた場所を。
「で、泉はどっち?」
飛ばしていた意識をフィリアムに戻すと、エルダンはこっちだと足を踏み出した。


