フィリアムはそう言いながら目尻に涙を溜めている。それでも、その雫を垂らさぬよう必死に堪えている姿がなんともいじましい。
「本当は祠の周りの泉に水を汲みに行かないか、ってことなんだけど……」
「なんでまた急に?」
エルダンはピンと人差し指を立てると、実はな、と勿体ぶりながら話し出す。
「『彼の水浸からば傷ば消し、飲めば病魔消し払わん』——つまり、祠の周りに湧く水は、万能薬なんだ」
万能薬の言葉にフィリアムは顔を弾かれたようにあげる。
「じゃあっ、お父さんの中の毒も!?」
「泉はあらゆる魔を浄化する。十中八九消せるだろうな」
しかし、これには一つ問題がある。
それにはフィリアムも気付いているようで、リスクは?なんて聞いてくる。
なんて可愛げのない5歳なんだろう。
エルダンが5歳の時に、リスクなんて言葉使ったことなんてない。というかここまで会話が成り立ってた覚えもない。
「リスクっていうよりは、掟なんだが、その泉から先は神域であり神の持ち物だ。つまり俺らはその泉に許可なくふれることはできない」
「え、じゃあどのみち持って帰れないじゃん」
「ただし、巫女以外は、だ」
フィリアムは、どこかで聞いたことあるような……、と頭を傾げている。
「ラナ——いや、お前の母さんが先代の巫女だったっろ?」
「そうだった!」
フィリアムはぱんと手を鳴らす。


