こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—










「おい……いつまでそこにいる気だ」

「……わかんない」


 エルダンは今日も同じ木の上で膝を抱えるフィリアムを見て溜息をついた。


「お前がそうしてたってセルファの具合はよくなんねぇだろ?」

「分かってるけど…… 私は何もできないから……」


 フィリアムは自分で言っておいて、“役にたたない”という言葉に傷ついたように顔をふせた。

 その態度にエルダンは苛つきを隠すように息をはく。


「……お前にもやれることあんぞ」

「え?」


 エルダンのほうにのろのろと顔を向ける。と、勢い良く木桶が飛んできた。
 腑抜けていても、流石はセルファの娘。フィリアムはなんなくそれをキャッチした。
 小さく舌打ちする。結構早く投げたつもりの木桶をフィリアムはなんてこともなく掴んでいる。


「……危ないじゃん!」

「5歳で化け物レベルか……」

「え、なんて言ったの?」

「当たればよかったのに、って言ったんだよ!」

「ひどいっ」

「冗談だ」


 ようやくいつものテンポに戻りつつあるフィリアムに自分のいやーな笑顔を投げかける。


「ちょっと危ない橋を渡ってみないか?」

「やだ」


 即答か、と苦笑いを浮かべる。


「勝手なことやってお父さんに迷惑かけたばっかだよ……?」