こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




「ははっ……」 


 突然上から降ってきた笑い声にフィリアムは恐る恐る顔をあげる。


「お前は、何に対して謝ってるんだ?」

「ふえっ?」


 いつものお父さんと何ら変わらない笑顔に、フィリアムの涙は一瞬でひっこんだ。


「怒ってないの……?」

「怒ってるよ」

「え゙……」


 笑顔で何を言っているんだ、と呆れそうになりつつ、自称怒っているというお父さんの表情を真正面から眺める。

 どんな色眼鏡で見たって怒っているようには見えないだろう。


「……怪我、させたから?私のせいで」


 とりあえず考えつく怒っている理由をあげてみる。


「違うよ」

「じゃあ、夜中にお父さん起こしたから」

「違う」

「勝手にエアリエルを連れてったから?」

「全然違う」


 じゃあなんで?と尋ねたら、本気の拳骨が頭におろされた。
 
 痛すぎて声が出ない。

 その横でお父さんはそれくらい我慢しろ。と笑い、ふと真剣な顔でフィリアムの頭を撫でた。


「真夜中に独りで妖魔退治なんて、怒らない親がどこにいる」


 そう言ったお父さんの顔はくしゃりと歪んでいた。

 スッと顔が近づいてきて、フィリアムの額とお父さんの額がぶつかる。
 その目は慈愛に満ち溢れているやさしい目だった。