「じゃあなんで他の男のところに行ったりするんだ。」



でも違う。




千歳は私を好きになることはないから。





「千歳、



また間違えてるよ?」























「間違えてないよ、伊緒。」






『伊緒』





初めて……呼ばれた気がした。




ずっと……呼んでほしかった。




私の名前を呼んで抱きしめてほしかったの。






「でも……千歳の心は……


昔も今も、紗夜さんでいっぱいでしょ……?」




「私の入り込むすき間なんて……」



千歳の抱きしめる力が強まった。





まるで、その事を否定してくれているようで……。




「ない……でしょう……?」







「違う。



あの日…………



伊緒が俺を愛してあげると言ってくれた日、



俺の心はやっと溶かされたから。



ずっと固まっていたんだ。



きっと、紗夜は俺の母さんの記憶に蓋をしただけだったんだ。




紗夜が死んだあとも、

俺はどうすればいいのか分からなくて。



結局紗夜の記憶にも蓋をしてた。




お前が溶かしてくれたんだ。伊緒。」





千歳の肩に顔をうずめた。

涙が……千歳の着物に染みていく……




「俺は今から紗夜との約束を破る。


今度は俺が愛する番だ。











伊緒、好きだよ。」







嬉しい。




嬉しい。





私も好きだから。



両想いだよ?まるで……奇跡みたい。




「キス……してもいい?」



私は千歳の肩に顔をうずめながら、

何度も頷いた。