「結局。」

「ん?」

「彼女とは、別れるのか?」

 雰囲気のせいか、素直に言葉が出てきた。
 さっきの自分のセリフを、取り消してほしくて、取り消したくて、尋ねた。

「信也はどう思う?」

 聞き返されて。

「別れた方がいいよ。」

 言い返した。

「さっきは別れない方がいいって言ってなかった?」

 またそう聞き返されて。

「さっきはさっきだろ。」

 俺も言い返した。


ここで事情をちゃんと言えたら、どんなにいいことなんだろう。


俺がお前を好きだから、別れて欲しいんだ、なんて言えたら。どんなにラクになれるんだろう。

「俺に恋は合わない。」

 真っ暗になった空を見上げながら祐也がそうつぶやいた。

 俺もつられて空を見上げた。

「人のこと気遣うのとか、下手だから。」

「気遣う必要ないんじゃない。」

「え?」

「何でもない。」

 会話を無理矢理切って、住宅街の入り口で、足を止めた。


「じゃ。」

 軽く手を上げて、その手をまたポケットに戻して、交差点を右に曲がった。

「あ、待ってよ信也。今日は付き合ってくれてありがとうな。」

 背中でそれを聞いて、また軽く手を上げて、ポケットに戻した。

 交差点からまっすぐ行って、次の角を曲がる時。
なんとなく気になって、さっき別れた交差点の方を見た。


 もういないと思っていた祐也が。振り返った俺に気がついて、多分、いつもの笑顔で笑っている気がした。遠くてよく見えなかったけど。


 いつまでいるつもりなんだろう。どうして、帰らないんだろう。

 俺だけ何も知らないまま、また向き直って角を曲がった。



 クレープ屋に向かう時に捕まれた腕に、まだ感触が残ってる気がした。