「シン、どうしたんだよ。」


 家の近くの交差点で息を切らして立ち止まった俺の肩に、息を切らしたカズが手を置いて、そう言った。

「カズ・・・苦しいよっ・・・」

「えっ、苦しいって、今、走ったんだから当たり前だろ」

 とぼけているのか本当にそう思ってるのかわからないけれど。

「好きって、心が痛いことだったんだ。」

 自然に言葉がこぼれた。

「好きって、お前・・・」

 気を利かせてくれたのかそれ以上カズは何も言わなかった。

 ただ、胸を押さえて震える俺の肩を、ずっと撫でていてくれた。


 俺は、祐也が、好きなんだ。


 でもあいつにはかなり美人な彼女がいて、男同士で。


 だからこの感情は、消えてしまえばいい。
 そう、消えてしまえば…


「綺麗な人だったな、彼女。」

 冷静な声でそう言ったカズの言葉は頭の上から聞こえた。

「うん。」

「仲良さそうだったしな。」

 カズの一言一言が頭より先に胸に響く。

「そうだね。」

 冷静なフリして返しても、声が震えた。

「でも、やってみなきゃわかんないよな。」

「やってみるって・・・何を・・・」

 あきらめて、忘れてしまえばいいと心に決めようとした瞬間のカズの言葉。

「俺は相沢、お前はあの人。一緒に頑張ろうぜ。」

 たったその一言で、胸の痛みが、涙になって溢れて来た。

 気を利かせて言っただけの社交辞令かもしれない。それでも。



「頑張る」

 俺はそう答えた。