冬の風に変わりつつあるとある日。


二人でよく来るようになったカフェでのんびりしようと水野さんを呼び出した。

ここのロイヤルミルクティーは彼女のお気に入りのようで、少し顔を綻ばせて注文していた。


「やっぱり、これおいしい!」


「よかった」


「なんだか、ロイヤルミルクティーって先輩みたい」


「え?」


「暖かくて、優しくて…」


そんなことない。俺はそんな人間じゃないんだよ。




「でも、どこか遠い…」

「…!」


きっとそれは、ふと口をついて出た本音。

俺は、そこでようやく気づいた。


彼女が無理して笑っていたこと。
俺が自分のことしか考えていなかったこと。

彼女に何も愛情表現できなかったくせに、水野さんの笑顔を俺が奪っていたことに。


ぐつぐつと煮詰めすぎた飲めないブラックコーヒーに、いくら水を足しても飲めないものは飲めない。

結局俺は、彼女を汚すことしかできないのだ。



「──水野さん、ごめん、」



そうして俺は、別れを告げた。