今の私には、帰るという選択肢しかない。



そう言い聞かせて、後ろを振り返った時だった。



「…杏っ!!」



そこには、息を切らして私を呼ぶ、幼馴染みのあいつがいたんだ。




「昂…」



こいつは、私のことをなんでも知っている。

もちろん、家の事情のことも。




だからだろか。

昂の顔を見たとたん、安心して涙が溢れてきてしまった。



私が涙を流したのを見て、昂が慌てて駆け寄ってきた。



「杏っ、どうした?」



「なんで皆幸せそうなのっ!?

なんでうちはあんな暗いの…?

なんで、私だけっっ…うぅ…」





昂は黙って私を抱き締めた。






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その日昂に助けて貰わなかったら、今の私はいないだろう。




それくらい、大切な日だった。







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