君想歌

池田屋の前を走る
数人分の足音が響く。


時間的に土方らが応援に
来た頃か。

吉田の意識が外へと向く。


「時間が無い。
和泉以外に殺されるのは嫌。
さぁ……殺りあおっか」


和泉を愛しそうに撫で
一歩後ろに下がる。


ふわりと夏の夜風で吉田の
前髪が煽られた。


「本気で。ぶつかるよ」


すらりと鞘から刀を抜くと
吉田は構える。


「……」


和泉も僅かな間目を閉じ。


吉田をしっかりと見据えて
刀を身体の前で構えた。


他の物は目に入らない。

吉田だけ、見つめる。

和泉の視線に微笑した吉田。


それを合図に。

狭い室内で両方が同時に
畳を蹴った。


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