君想歌

派手な騒ぎでも無いけれども
奉行所沙汰になっては厄介だ。


早々とその場所から立ち去る。

和泉が懐刀を抜こうとしたのを
吉田が止めた訳。


自分一人で片がつけられる。
それが一つめの理由。


もう一つ。
和泉が刀を持つ姿は自分と
居るときは見せてほしくない。

吉田が先程のことで素晴らしく
機嫌を悪くして後ろから和泉を
抱きしめ離れない。


「栄太郎。歩きにくいっ」


「やだ〜。
和泉と一緒に歩く」


ぎゅーっと身体に腕を絡ませ
余計にくっついてくる。


二人は外出先にも関わらず
甘い雰囲気を漂わせる。



その途中で旅姿をした男と
すれ違ったのを和泉は
気が付かない。


ちらりと横目で吉田は見ると
口を動かす。


『………―――――』

挑戦的に上げられた口角。


目を一瞬見開いた旅人は
次の瞬間、消えた。

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