君想歌

「父上〜。文ですよ〜」

道場で素振りをしていた父親、薫は愛娘の声に顔を上げた。


「ん!?文か」


手を止めると道場の真ん中で
和泉から受け取った文を広げた。


文を読み進めていく父の後ろに
和泉は座った。

小さい頃からお気に入りの
一つに纏められたフワフワの
茶色い髪を触る。


そんな和泉に当然、
父親の顔は見えない。


どんどん難しくなっていく
表情など。


かさりと音を立て文をしまった
薫は背中に掛かる重さに
笑みを漏らす。


「何度、見られるのだろう……」

寝息をたてる和泉の頬を
そっと撫でた薫は入口に
目を向ける。


少し困った表情で手拭いを
握りしめた妻、弥生は
恐らく勘づいている。


長州に自分たちの居場所が
知れてしまったことを。