君想歌

文久三年 七月


出来事はそこまで遡る。


蝉の鳴き声がひっきり無しに
響く夏の午後。


閉められた襖のせいで
熱気がこもる長州藩邸の
一室で向き合う人物。


桂小五郎。

そして乃美織江。


乃美は長州藩邸で桂と並ぶ程の
実力を持つ人物である。



「瀬戸家が見つかったらしいな」

しばらくの沈黙の後に、
乃美は苦々しく口にした。


「……あぁ」


対する桂も難しい顔をして
押し黙る。


長州は始末しろ、と。

だが桂も乃美もどうにかして
逃がしてやりたい、との思いが
強かった。


「乃美さん。二月後に動こう。
なるべく情報を外に流すのだ。」瀬戸家が逃げれば深追いは
せずに、処分したことに。
それが得策じゃないかい?
悠の素性は私たちしか知らぬ」


桂は穏やかに目を細め
口元を緩める。