君想歌

話を続けるうちに
すっかりと日は傾いていた。


橙色に地を染める太陽を見て、
はっとして和泉は呟いた。


「やばっ。
巡察前にご飯食べる時間が
無くなるから帰るね!」


横に置いた刀をひっ掴み
吉田に背を向ける。


「うん。頑張ってね。
それと、和泉だけじゃないよ。
俺もそうだから」


意味深い吉田の言葉は
和泉の耳に入らない。


土手を走る小柄な姿を
見えなくなるまで吉田は見送る。


「稔麿!!
アイツは俺らの敵だぜ?」


和泉と仲良く話しをしていた
吉田を咎めるような声が
上から降ってきた。


「晋作。
盗み聞きは止めなよ。
それと和泉に手は出さないでね」

笑いながら言葉を返す吉田だが
一切目は笑っていない。


吉田栄太郎、
本名は吉田稔麿。


そして萩からの腐れ縁である
高杉晋作。


共に長州の攘夷志士。
それも過激派とつく程の
厄介者だ。