「桜 間に合わなかったねぇ」
アタシはキッチンにいるママに話かけた。

今年の春ははいつもより寒くて
庭の桜のつぼみもまだ硬い。

今日は高校の入学式なのだ。
入学式に桜が咲いていないなんて
ちょっとテンション下がっちゃう。

「でも
今日は暖かいわよ」

お味噌汁をよそいながらママがニッコリ笑う。

「そうそう
響君がね。
迎えに行くから一緒に行こうって」

飛鳥響(あすかひびき)

中学の同級生だ。
ちなみに小学校も同じである。
いわゆる幼馴染みってやつ。

ワタシのママと響のお母さんはとても気が合うらしく
よく一緒に出掛けたりしている。
どうせ今日の入学式も一緒に行くつもりなのだろう。

「ママ達は10時からでいいのよね。」

「うん
ワタシは先に行くから」

しかし
なんで入学式に響と行かなきゃならんのだ?
彼氏でもないのにさぁ。

「なに
ぶつぶつ言ってんの?
早く支度しなさいよ」

ハイハイ・・

お茶をゴクンと飲みながらうなずく。

ガチャン!
玄関のドアが勢いよく開いた。

「ピンポーン 響でーす。」

自分でピンポン言うなよ・・・

てか
かってに開けるなよ。
ここはお前の家かっ!

「おはよ。
響君」

「おはよー。オバサン。
おはよー。花。」

花。
これがワタシの名前。

鈴木花。
すずきはな。

なんとも平凡な名前である。
日本人のランキング第2位の苗字だ。

まぁ
なんでも平凡が1番だというけれど。

花という名前はパパが付けてくれた。

ちゃんと聞いた事はないけれど
うちは花屋だから・・・

花なのかぁって(笑)

「花っ!
早くメシ食えよっ!」

うるさいなー。

「髪もくちゃくちゃじゃんかー」

あーーー
もーーーーっ!

「オバサン
クシとシュシュ!」

響が手早くワタシの髪をまとめる。

響の家は美容院なのだ。
小さい頃からご両親の仕事を見てきているから
髪を結ぶくらいはどうって事ないのだろう。

「あと10分で準備しろよ」

ハイハイ・・

あ~あ。
慌ただしいなぁ。

ワタシは静かに席を立った。