孔雀達のそんなやり取りを、シンは特設リングへと向かう通路の途中で見かけていた。

「すげぇよな、孔雀は」

リング上の開始線に立ち、素直に対戦相手を誉める。

「何が?」

「だって試合前に、自分の兄弟や仲間の傷の心配なんて…俺なんて、リィの事気遣ってやる余裕さえなかった…野菊が声掛けに来てくれたのに、何か上の空な返事しかしてやれなくてさ」

苦笑いするシン。

緊張するのも仕方ない。

天神学園最強を決めるトーナメントだ。

しかし。

「僕が兄さん達を気遣っているって?」

孔雀もまた、苦笑いを浮かべた。

「違うよシン…僕は気を紛らわせてたのさ…別の事に意識を向けなきゃ、緊張に押し潰されそうだ」

「えっ…」

いつも飄々と、雲のように摑み所がなく、ともすれば同年代のシン達よりずっと大人びて見える孔雀。

だが彼も多くの重圧にプレッシャーを感じていた。

やがて跡を継ぐ琴月の宗主の座。

その検分の場にもなり得るタイマントーナメント。

そして、琴月を継ぐ上で必ず手懐けなければならない、この腰の黒き刃…。