もう、明日がないなら…

「これは…」

　彼は一瞬目を見張り、思わずそう口にした。

「雅臣さん？」

　美妃が彼の背後からそう尋ねたその時、彼女は自由は奪われていた。後ろから首を腕で締めらると同時に彼女の口が白い布で覆われた手で塞がれたのだ。

　美妃は死んだように膝から崩れ落ちた。不穏な空気に気づいた雅臣は、振り返ろうとしたが、背中に冷たくて固い筒が突き刺さっていた。

「さっきから僕たちを狙っていたのは、雄哉の雇った殺し屋さん、あなたですね」

「静かにしろ」

　低く、ドスの効かせた声をともに、拳銃を突きつける力がいっそう強くなる。しかし、雅臣は不敵な笑みを浮かべていた。

「ついに接近戦ですか。はて、表に止めた車に、優秀なスナイパーがいたと思
ったが」

「あの女か」

　男は鼻で笑い、「あいつは俺たちの連絡係だからな」と口にしたのだ。すると、雅臣も口角をあげ、諦めたように苦笑した。

「手に持っているものをよこせ」

　男は雅臣が手で握っていた小さな端末を要求すると、彼の動きが一瞬止まる。しかし、降参したように手を上げ、彼は男の要求を飲んだ。

「この女ももらっていく」

　男はそう言い残すと、薬で眠らされた美妃を担いで地上へと走って行ってしまったのだ。