「お祖父様と不倫…」

 美妃がポツリとつぶやくと、今まで黙っていた佳美が運転しながら笑い出したのだ。

「あなた、不倫相手の子どもと遊んでたわけよね? 大人の事情とはいえ、ちょっと可笑しいわよね」

「いや、それはちょっと違う。父と春日氏は仕事で知り合ってからの友人なんだ。うちに何度か来て、酒飲んでたし。家族ぐるみの付き合いだったようだ。幸太郎氏が会社を息子に譲って隠居生活に入ると、息子夫婦の子どもの面倒を見ながら、父が煙たいと思っていた雄哉を春日氏に預けて一緒に面倒をみてもらってたんだよ」

 雅臣が付け加えると、美妃は眉根を寄せて視線を落とした。

「煙たいって…。自分の子供なのに…」

「それに、幸太郎氏が早くに隠居した理由は、奥さんが病死したからなんだそうですよ」

 雄哉の母は、雅臣の父へ不審感を募らせていた。そして家族ぐるみで付き合っていた春日幸太郎氏と不倫の関係に落ち、そのことが明るみに出た後、彼女は自ら命を絶ったー

 世間体を気にした橘氏は、当然、不倫相手に息子を預けるわけにはいかず、雄哉は当時の美妃と会うことはなくなったのだ。晴美の言う、『あの時、揉めたのよ』の真相がだいたい掴めたその時だった。