「僕は、五歳の時に施設から橘家に養子として入りました。養母は体が弱く、子どもの出来ない体質だったようです。僕が養子となってすぐ、母は病気で亡くなりました。その後、父は体調を崩し、入院しました。その時に出会ったのが、後に後妻として入った雄哉の母なのです」

　雅臣は、目を伏せた。

「父は、息子二人の会社を経営する上での能力を見極めた結果、血の繋がった雄哉よりも僕を選びました。雄哉の母はそれが気に入らず…。思い出しますよ。僕にとって嫌な思い出です。僕は雄哉の母からいろいろな仕打ちを受けましたからね」

「何故、雄哉さんのお母さんが亡くならなければならなかったのかしら…」

　美妃は素直に疑問を吐き出していた。すると、雅臣は目線を上げ、彼女の顔を見つめた。

「どうやら、春日幸太郎氏と不倫の関係にあったようです。関係は二年ほど続き、それがバレたので父は雄哉の母を軟禁しました。その時、彼の母は自殺したんです」

淡々と語る雅臣だったが、美妃にはその言葉の一つ一つで、ドロドロとした生臭い人間ドラマを想像するのは容易かった。