「もし、雄哉さんが望んだ通り、お祖父様が何もかも捨てて彼のお母様と一緒になっていたら…、どうなってたと思う?」

「それはやっぱり…」

 愛情に飢えた雄哉は、きっと生まれてこなかったかもしれない。彼は、自分の存在自体を否定していたことになるのだ。

「…心の何処かで、自分の運命を恨んでいたかもしれないな」

 静かに雅臣がつぶやくようにそう口にした。すると彼女も同調するようにコクっとうなずいた。

 風が強く、流れる雲の動きが早かった。一通りの作業を終えて、美沙は最後に仏花を飾り、用意していた線香の束に火をつけた。そして雅臣の横に並び両手を合わせると、閉じた目から一筋の涙を流していた。

 春の終わりを告げるその風で、彼女の涙は大きく煌めいていた。