罪を重ねないで…

 私への愛が本当なら、もう他に何もいらない…

 それで全てが収まるなら、昔の記憶なんて戻らなくていいから…!



「美沙…!」

 咄嗟に雅臣が叫ぶ。誰もが彼女の行動に驚いていた。それは、拳銃を握っている雄哉でさえも…。しかし、雄哉はその驚きを拭うように鼻で笑う。

「…僕は君を愛してなんかいないよ。僕はただ、何もかも壊したかったんだ。母を悲劇に陥れた男を殺し、その男の家族になったその子供の幸せな暮らしを壊し、邪魔な雅臣兄さんの生き甲斐を潰す…。それが僕の目的さ。」

「嘘…!」

 美妃は雄哉を抱きしめる力をいっそう強くし、彼の胸に自分の顔をうずめた。彼女の体温が徐々に彼に伝わって行く。

 一瞬、彼の頭の中に美妃とのこれまでの日々が雪崩のように押し寄せていた。しかしそれを振り切るように首を振る。そして彼女の体を振り払い立ち上がると、今度はその銃口を雅臣に向けたのだ。