最高に幸せだった。自分と同じ考えだった彼を心の底から愛おしいと思っていたのだ。彼女もしゃがみ、床に手をついて肩を震わせていた彼をそっと抱きしめた。

「…約束してほしいの。私はあなたの子どもを産む。あなたはこの子の幸せを見届けてほしいの。あなたが私たちの愛の証を大事にしてくれたら、私、ひとりでも生きて行けるから」

「花恵…?」

 彼女の思いがけない言葉に、幸太郎は目を見開き、ゆっくりと彼女の方を向いた。

「…あなたには守るものが多すぎる。私のために、全てをふいにしてはダメ」

 まるで小さな子どもに言い聞かせるかのような優しい口調で彼女は彼の耳元でそう告げたのだ。

「あなたも、生きる意味を失わないですむじゃない。…お願い」

 彼を抱きしめる力がぐっと強くなる。彼女の言葉の意味を深く理解できた時、彼は力強くうなずいた。

「お腹、触ってみて?」

 彼女は、彼の手のひらをそっとお腹に移動した。

「ここに、あなたとの子がいるの。もうそれだけで、私…」

 胸が一杯になるの…。

 彼女はそう言いたかった。本当に、彼女は幸せで一杯だった…