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ユージが去ってから、1時間ほど経ち……あれからずっと、私は小さな紙を見つめていた。




フジヤマの本名、『沢口 晋也』と書かれた1行下に電話番号とメールアドレスが書いてある。

それと、【基本水曜が休み】とも書いてある。

今日がその水曜日。 ……だからこそユージが今日私の家に来たのかもしれない。

私が連絡したあと、すぐに反応が出来るように……。


フジヤマの名前の3行下に、『雪村 秀一』の名前がある。

同じように、1行下には電話番号とメールアドレス。

そして、【いつでも暇】との言葉が。


……YUKIらしいな。と思う。 というか、チャットばかりやってる人だから、当然と言えば当然の言葉だ。

私だって、つい最近まではそうだったのだから。




「……ユージの名前……木瀬っていうんだ……」




木瀬 祐二(キセ ユウジ)

それが、ユージの本名。 同じように連絡先が書いてあり、YUKIの欄と同じく【いつでも暇】との文字が。




「……」




みんなの連絡先を携帯に登録したあとに、また紙を眺める。

……みんなの本名と連絡先を、私は知ったんだ。

それだけでもう、普通のチャット友達とは違う。 もっと近い存在なんだ。




ーー『俺は俺だし、YUKIはYUKI。 フジヤマはフジヤマで、サクラはサクラだろ?』




……自分は自分、か……。

そんな風に言えるユージは、本当に凄いよ。


ユージみたいに考えようって、思ってた。 頭ではちゃんと思ってたし、そうなろうともしてた。

でも実際の私は、全然ダメだ。


サクラと桜子は違う。

桜子は、みんなへの連絡ですら緊張して震えている。


……リアルでも、サクラで居られたらいいのに。

サクラのように動けたらいいのに……。




「はぁ……」







小さく息を吐いたあと、パソコンを見つめた。