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お昼ご飯を食べたあと、私たちはゆっくりと水族館内を見て回る。

大きな水槽の中では数多くの魚が優雅に泳いでいて、とても綺麗。

外の蒸し暑さを忘れ、私たちは海の底にでも居るかのように世界を見つめていた。


私たちと同じように、お昼ご飯を済ませた人たちで館内は賑わっている。

やっぱり学生が多くて……ふと、同じクラスの子が居ることに気がついた。


その子は、いわゆるギャルというやつで。
どうやら今は、彼氏とデート中らしい。


……まぁ、私には気付かないまま歩いてくだろうけど。

私は今、学校と同じように隅っこの方に居る。 いつもと同じ、『幽霊』のように居るのだ。

人混みが苦手だから、ついつい幽霊になっちゃうんだよね……。

しかも、『それでもいいや』って思っちゃう自分が居る。

チャットの中では明るい女の子だけど、やっぱり私は、地味な女。

それ以上を、望んでいないんだ。




「サクラ」

「ん?」

「なんか、今にも消えちゃいそうだね?」




隣に居るYUKIが、ふふっと笑う。

あー……幽霊みたいになってることに、気付いてるんだ。




「知り合いでも居た?」

「んー……ちょっとね」

「そっか。 まさに『幽霊』だね」




オフ会の日に、私はフジヤマの車の中で普段の自分のことを話した。

そのことを思い出してるらしいYUKIは、私の頭をポンポンと叩いてからまた笑う。




「チャットの中ならナイスな突っ込みをする面白い女なのに」

「……それは、自分の顔とか、相手の顔とか……何も見えないからこそ出来ることだよ。
チャットなら初めて会った人ともすぐに仲良くなれるけど、リアルは違うじゃん?
私、相手の目を見て話すのが苦手で……」

「あー、俺も苦手だから、よくわかる」

「……YUKIも苦手なの? 全然平気そうだと思ってたけど」

「苦手だよ、メッチャ苦手。 サクラのことを見るのもメッチャ頑張ってるもん」

「えー……?」




……とか言いながら、私のことすっごく見てるんですが。 しかも余裕っぽい表情。

どこが苦手なんだろうか? と首を傾げると、YUKIはクスッと笑ってから小さく言った。






「ていうかさ、サクラは特別だよ?」