「おはよう、環。相変わらず雨の日はひどいな」
「ほっといて赤城くん」
ちょっと、私男の子とちゃうねんけど!
そう喚くのは、クラスメイトの赤城ほのか。性格はとてもさっぱりしていて、サバサバしているところから、まるで男の子みたいだね、という理由であだ名が「赤城くん」なのだ。
男子からもよく「赤城くん」と呼ばれているそうで、本人曰く「あまりいい気分ではない」ということらしい。
『私はもうちょっと、女子として見て欲しいっていうか。ほら、こんなにか弱い女の子を、くん付けして呼ぶのはどうかと思うな』
それが彼女の主張だ。
ちなみに、ほのかはまったくといっていいほどか弱くはない。
握力は学年でトップだし(いじめっ子男子に向けて「お前の金玉こうやぞ」と言ってみかんを握りつぶして見せ、更生させた伝説は後輩にまで語り継がれている)、正義感の強いほのかは、やれ東でいじめがあれば行ってやめさせ、やれ西で先生いびりが始まれば行ってやめさせたり。
他校との喧嘩も耐えないらしく、不良ではないのだが、この学校では不良扱いになっている。
見た目はふつうの女子高生なのに、どこにそんな馬鹿力があるのか、まったくもって理解できない。
「ところで環、宿題やってきた?」
「うん。……また?」
「昨日は壬生校のやつが突っかかってきてん! 私なんもしてないで? なんもしてないねんけど、売られた喧嘩は買うもんやからさあ……」
「お買い得でも買うな。あともうすぐしたら柴くん来るで、はよ写し」
「ありがとおお! このご恩は必ず、必ずやお返しいたしますゆえ……!」
あー、はいはい。
適当にあしらって数学のプリントをほのかに手渡す。彼女はポケットに常備してあるシャーペンと消しゴムを出すと、小さく折りたたまれたプリントを広げてせっせと公式を写し始めた。
