このほど沓掛陶子の縁談がまとまった。山ほど殺到する希望者の中から彼女が選んだのは、カメリア女学園の所在地と同じ市にある老舗呉服店の若旦那だった。若旦那といってももう三十代後半だが、切れ長の目が涼しげな清潔感のある男性である。その婚約の知らせを聞いた学生たちは、陶子なら老舗の呉服屋の若女将にぴったりだと思った。和服姿で店に立つ彼女の姿を想像しても全く違和感はない。

 二人は陶子が短大を卒業した後に結婚し、店舗から程近い高級マンションで新婚生活をスタートする予定だ。山の手の屋敷に住む彼の両親と同居する必要はなかった。

「あなたは淡白な男の人が好きだって言っていたけど、確かにサッパリしてそうな顔してるわ、この人。あなたの好みってこういう人だったのね」

 婚約者の写真を見てルームメイトの桐原恵梨沙が言った。

「こんな感じのいい人が四十手前まで独身だったなんて信じられないわね」

 ルームメイトの問いに陶子は静かに微笑む。

「もちろん、今までいくらかは女性とお付き合いがあったのでしょう。うちの倶楽部に登録している男性の中にはそういう人が多いわ」

「ねえ、陶子。こういう人だったら親類縁者からいいとこのお嬢様を紹介してもらえたはずなのに、彼はあえてあなたを選んだのよ。きっと呉服屋の主人としての何かこだわりみたいなものがあったのよ。彼はホームページにあるあなたの和服姿に惹かれたんだわ。呉服屋の奥様になるなら着物が似合う女じゃないと」

 恵梨沙の意見を聞いて陶子はころころと笑った。

「どうかしらね。私は意外に松若さんが私の洋装を気に入ってくれたんじゃないかと思うんだけどな」

 陶子の婚約者の名前は松若といい、それは彼の営む呉服屋の屋号も兼ねている。