椿の園の中でもとりわけ美しい肌の持ち主として知られるのが、短期大学部二年の沓掛陶子である。東北出身の陶子は白磁の器のように滑らかな白い肌をしている。彼女の肌は幼児のそれのように肌理が細かくてふっくらとしていて、雪のように白い頬にはほんのりと赤みが差している。その肌にはファンデーションもチークも必要なく、彼女はいつも眉墨と口紅だけ引いて外出している。

 この肌の美しさは生まれもった資質と藤本女史によるアドバイスの賜物である。藤本が薦めるバラ水が入った特製化粧水は、保湿成分が肌の奥にある真皮まで届いて肌を潤してくれる。陶子はバラの練り香水も愛用しているので、彼女とすれ違うと微かなバラの香りに鼻腔をくすぐられる。

 人によっては、カメリア女学園は若い女性にとって天国のような所に見えるかもしれない。無償で中等部から短期大学部の教育を受けられ、卒業時には裕福な結婚相手を紹介してもらえる。学生の重要な関心事である美容については専任の栄養士や美容家がアドバイスをしてくれる。普通の二十歳の小娘には手が出ないようなハイクオリティの化粧品も提供してもらえる。また、学園の敷地内には学生たちが理想的な体型を維持するためのジムが設置されている。

 温室で丹精込めて育てられた花々の中でも、とりわけ凛とした風情があるのが陶子である。視力の弱い彼女は普段は眼鏡をかけているのだが、それを外した時の素顔の美しさは感動ものだ。白い肌と漆黒の髪を持つ彼女は学園で最も和服の似合う学生である。カメリア倶楽部のホームページに掲載されている陶子のアルバムには、振袖姿で花を生ける彼女の写真が載っている。会員は高画質の画像で彼女の透き通るような肌を拝むことができる。