この噂には諸説があり、郷里に帰った女子学生は地元の歓楽街で夜の商売に就いたという話もある。スナックのホステスをしている彼女はカメリア時代の上昇志向を抱き続け、パチンコチェーンの社長の愛人になったそうだ。社長の金で贅沢三昧に暮らしている彼女は一種の勝ち組と言えるかもしれない。

 また、女子学生は病気が治らずに死んでしまったという説もある。白椿寮に住んでいた女子学生にはルームメイトがいて、その彼女は将来有望な若手弁護士と婚約することができた。女子学生が病院で息を引き取った日の明け方、ルームメイトの夢枕に彼女が立ったとのだという。彼女は同居人を羨んでいたのかもしれないし、あるいは無念を打ち明けたかったのかもしれない。

 女子学生が使っていたベッドの真上には、天井に星型の蛍光シールがたくさん貼ってあり、夜電灯を消すとそれらが光るのだという。だから、新しく寮生が入った部屋に、夜になってプラネタリウムのような天井が姿を現したら、それは痩せ薬で死んだ女子学生の部屋だということになる。

 寮生たちは夜、談話室でポーカーをしながら、そういう噂話に花を咲かせるものである。学園の中でまことしやかに伝えられる話のことを学生たちは「学園伝説」と呼んでいる。カメリアの学生は普通の女子学生以上に容姿に注意を払わねばならないので、美容にまつわる色々な恐ろしい噂が飛び交うのである。痩せ薬の女子学生の話はどこまで本当かわからないが、ナズナにとっては非常に身につまされる話だ。ダイエットに挫折したナズナもインターネットで怪しげな痩せ薬を買いたい衝動にかられたことがあるが、噂話を聞いてすぐに考え直した。いくら痩せられたとしても病気になっては元も子もない。