「そう。あなたは私のことをよく観察しているのね。ところで陶子。あなたのお見合い相手は決まったの?」
 恵梨沙は話を変える。

「ええ。もうすぐ決まりそうよ。来週の頭には進路指導部から紹介を受けるわ」

「ねえ、陶子。あなたは私のことをわかっているみたいだけど、私はあなたのことがよくわからない。短期大学部に入る時に同室になって以来、あなたとは一年以上一緒に暮らしているけど、あなたが私に自分の内面を見せてくれたことはないわ。あなたは秘密主義的な人よ」

「そうかしら」

 ルームメイトの陶子は椿の園においては平均的な顔立ちをしているが、そこはかとなく透明感を漂わせている娘である。東北出身の彼女のチャームポイントは陶磁器のように滑らかな白い肌である。普段は眼鏡をかけているせいでその美貌が半減している。女子校で何年も暮らしているというのに誰とも群れず、常に仲間たちから一歩距離を置いている。彼女にはどこかミステリアスなところがある。

「さっき私のお相手について言及していたけど、あなたの好みのタイプの男性はどうなのよ? やっぱり若い二枚目がいいの? それともドイツ車を何台も乗り回している百万長者がいいわけ? なにせ、あなたときたら今までのルームメイトと違って、全然ガールズトークをしないんだもの。どういう人が好きなのかさっぱり見当がつかないわ」

「私も相手の収入にはこだわらないわよ。そうね、淡白な性質で私と同じ嗜好の持ち主がいいわ」

「趣味が同じで淡白な男? なんか曖昧でよくわからないわ」

「わからなくて結構よ」

「なんか、あなたと付き合う男の人ってどんな人か想像できないわ」

「そう。正直、好みのタイプなんて私自身にもよくわからないわ」

 陶子はルームメイトの灰色の目を見て笑った。恵梨沙は肩をすくめる。

 陶子はつかみどころの無い同居人だが、他の女子学生と違ってサッパリしているから、一緒に暮らしていて楽だった。女の世界にありがちな、とりとめのない愚痴や同級生の悪口を聞かされずに済むのはありがたいことだった。