カメリア女学園の履修科目の中には「婦女子の心得」なるものがある。普通、アカデミックの世界で女性についての学問というとフェミニズム論のことを指すが、「婦女子の心得」はそれとは正反対の内容を論じる科目である。戦後八十年あまりが経過して、再び賢夫人のあるべき姿やマナーなどを教えているのである。

 この科目では男性との交際術についても論じられる。巷で多く出版されている恋愛のハウツー本に書いてあることを、学校の先生が教えてくれるというわけだ。もっとも、低俗な雑誌が説くような不純で刹那的な恋愛については言及しないが。

 教員は歴史上の有名な女性を例に挙げて、彼女たちがいかに男性の心をとらえるのが上手かったかを論じる。この実例を用いた説明は、あたかも偉人伝を聞くかのような、興味をそそられるものがある。

 ある時、担当教員の福芝瑞希女史が取り上げたのは、あのクレオパトラと、エドワード八世と世紀の結婚を果たしたウォリス・シンプソン夫人であった。特にシンプソン夫人には、アメリカ人で離婚歴があるのにもかかわらず、エドワード八世に王冠を捨てさせてまで結婚してもらったという逸話がある。彼女のような一般の外国人女性が英国の王位継承者と卑賎結婚することができたのは、男性の心をとらえるコミュニケーション能力によるところが大きい。クレオパトラやシンプソン夫人、それから他の玉の輿に乗った女性たちには共通点がある。彼女たちは、自分のことを話すことよりも男性の話を聞くことに努め、あのうっとうしい自慢話も嫌な顔一つせずに耳を傾けてあげる。そして、相手がどんなに年上であろうと、母親のような包容力で男性を包んであげるのだ。