客人が去った境内に携帯電話の着信音が響いた。

「はい。源生寺です」

 住職が電話に出る。

「ああ、学長先生ですか。ええ、今しがた一組片付きましたよ。学生さんの恋敵は彼をあきらめましたからご安心ください。本当にもう大丈夫かって? 大丈夫ですとも。あの女性は未練がましい人ではありません」

 携帯電話からは礼を述べる中年女性の声が聞こえた。声の主はカメリア女学園の学長を務める人物で、彼女は前もって住職に話をつけていた。なにしろ、学園の女子学生とエグゼクティブとの仲を取り持つのが教員の使命なのだから、恋敵にはなんとしてでも消えてもらいたかったのだ。


 通話を終えてから彼は独り言をつぶやいた。

「あのお嬢さんにはちょっと申し訳なかったけど、結果的には私は良いことをしたんだ。あんな頼りないボンボンに毅然とした育ちの良いお嬢さんをやるのはもったいない。あの手の男は金持ちなら誰でもいいと言う貧乏娘にくれてやればいいのだ。あれは美人の生娘にあっさり篭絡されて、長い付き合いの恋人を捨てる俗物だ。私のやったことは正しいのさ」

 住職は携帯の着信履歴に目をやる。

「まあ。あの花嫁学校に協力する私が偉そうなことは言えんがね」