だが、菫は毅然とした態度で顔を上げた。

「それで、杉田さんはどうしてほしいとおっしゃるんですか」

 その目はまっすぐに志穂美の目を見据えている。玉の輿を狙う女学園の学生だけあってなかなかどうしてたくましい。

「ど、どうって、優二と別れてほしいに決まっているでしょう。それがあなたのためにも望ましいことだって、今言ったじゃない」

「私も今、奥村さんと別れる気はないと言いました。彼は私のことが、私の方が好きなんです」

「優二は私には私が一番だと言っているわ」

 志穂美はしゃあしゃあと言ってのけた。この図々しさが菫よりも九歳年上の女のアドバンテージなのである。

「では、こうしたらどうでしょうか」

 菫が提案してきた。

「中立的な年長の第三者を呼んできて、私たちの内どちらが奥村さんに相応しいかを判断してもらうのです。公正な見方をする人が適任です。杉田さんは、相模原の源生寺というお寺の和尚さんが、人生相談に乗っているというのを聞いたことはありませんか」

「ええ、あるわよ。時々メディアで取り上げられる人よね」

「その人にたずねてみませんか。奥村さんの生涯のパートナーとして、私とあなたのどちらが相応しいか見極めてもらいましょう。和尚さんは何百人もの人間を見てきた人間観察のプロですよ。どうです? 異論はありますか」

「いいえ。それでいいわよ。面白い案じゃない」

 なんと大胆不敵な娘なのだろう。事の次第によっては志穂美が認められて自分がはじかれる可能性もあるというのに、あえて思い人の妻の座を第三者の判断を委ねるなんて。これだけ肝っ玉の太い娘なら、お坊ちゃん育ちの優二のことを手玉に取ることだってできるはずだ。何が「可憐な女の子」だ。カマトトぶった小娘に騙されるなんて、あいつはやっぱり能天気なボンボンだ。

 ともかく、事態は思わぬ方向に転がろうとしていた。