「先週、俺は彼女と寝た」


「あら、案外手が早いのね。で、それがどうだって言うのよ? カップルなら普通にありうることでしょ。私たちだって……」

「菫ちゃんは処女だった。君とは違った」

「はあ?」

 志穂美は嫌な予感がしてきた。

「彼女はまっさらな女の子だったんだよ! 君みたいに妻子持ちのオヤジの愛人をやっていた女とは違うんだ」

「あなた、私の過去を気にしてるってわけ? 言っておくけど不倫でもあれは真剣な恋だったのよ。女の過去を気にするなんて了見の狭い男がすることよ! 全く現代的な考え方じゃないわ!」

「じゃあ、訊くぞ。仮に俺たちが結婚していたとして俺がよその女と浮気をしてもいいのか? 君は真剣な恋なら不倫でも良いって言ったじゃないか。どうだ?」

 志穂美は何も答えられない。そんな質問をするのはずるい。あの時、コピーライターとの恋愛で彼女はとても苦しい思いをして、自分ではその状態をどうすることもできなかったのだ。

「志穂美、男は何だかんだいっても貞操観念のある女を好むんだ。不倫なんて大昔は玄人の女しかしないことだった。本来は人の道から外れた行為なんだよ。俺はそんな倫理観の無い女に自分の子どもの母親になってほしくはないね。君は子どもの模範にはなれないよ。自分の母親が昔愛人をやっていたなんて知ったら、子どもがどう思うか考えてみろよ」