店内に年上の知人の姿を見つけた恵梨沙は「こんばんは」と声を掛ける。

「あら、恵梨ちゃんじゃない」

 知人はいつものようにエルメスのバーキンを傍らに置き、上機嫌で酒を飲んでいる。

「お久しぶりです」

 恵梨沙と来宮は軽く頭を下げる。

「受験勉強がんばってる?」

 志穂美の問いに恵梨沙はうなずく。

「じゃあ、今夜は息抜きをしているというわけね。まあまあ、こっちに座りなさいよ」

 志穂美は隣に恵梨沙を、そしてその向こう側に来宮を座らせた。来宮は微笑みながら女たちのおしゃべりを聞いている。

「今日の志穂美さん、いつも以上に明るいですよね。何かいいことあったんじゃないですか」

「ふふーん。やっぱ、わかる?」

 志穂美は赤ら顔で鼻の穴をふくらませる。

「もしかして新しい彼氏ができたとか?」

「ううん。そういうわけじゃないけど、何かがあったわよぉ」

「うーん。じれったいなぁ」

「それよりそっちの近況はどうなのよ。まあ、あなたは勉強一色の毎日を過ごしているんでしょうけどカナリア女学園の様子はどうなの。こないだの、落ちこぼれのオデブちゃんが超玉の輿に乗ったみたいな面白い出来事はなかったの?」 

「カメリア女学園ね」

 恵梨沙はまず訂正してから質問に答える。志穂美が「あ、これは失礼」と返す。

「ありましたよ。短大時代の同級生が最近すごいことをやらかしましたよ。志穂美さんが喜びそうなネタです」