二人の行きつけの店は町の隠れ家的なバーである。店の中には木の温もりであふれる居心地のいい空間がある。木製のカウンターの中には中年のマスターが立っていて、常連たちの話し相手になってくれる。棚には彼が集めた切子細工のコレクションが並べられていて、壁には彼の郷里の牧歌的な田園風景を写した写真が飾ってある。

 忙しい二人が久しぶりに来店すると、カウンターには杉田志穂美の姿があった。この界隈の大手広告代理店で働くバリバリのキャリアウーマンである。彼女は今夜もマスターにかまってもらいながら一人で酒を飲んでいるようだ。

 この店に通ううちに二人と志穂美は顔見知りになった。去年、恋人に捨てられた志穂美は泥酔した勢いで、彼を奪った恋敵の同級生である恵梨沙にからんだ。マスターにその時のことをたしなめられた彼女は、再び恵梨沙が来店した時に自分の非礼を謝罪した。彼女はお詫びにカクテル一杯おごってくれた。二人の女はそれをきっかけに和解し、店で顔を合わせるたびに世間話をした。もともと志穂美は姉御肌の女なので時たま会う年下の知人を可愛がっている。