「あたし、芸能事務所からスカウトされたんです」

 一拍おいて理香が打ち明けた。

「げ、芸能事務所ですって! あなた、いつの間にそんな所と連絡をとったのですか」

 佐島が驚きの声を上げる。まったくこの生徒ときたら一体どこまで人を驚かすつもりなのだろうか。

「休日に三園商店街を歩いている時に、スカウトの人に話し掛けられたんです」

 実際のところ、スカウトに声を掛けられたのは近所の商店街ではなくて渋谷のセンター街だったが、無断で遠出をしたことがばれると困るので、話を脚色した。学園では生徒が遠出をする際は届出をしなければならない決まりになっている。

「あなた、その事務所はちゃんとした会社なのですか。世間には芸能事務所を名乗るいかがわしい会社もあるんですよ」

「私を誘ってくれたのは『エース・プロジェクト』っていうそれなりに名の知れた事務所です。女優の秋島ミノリとかロックバンドのエレファントマンズが所属しているんですよ。まあ、先生はそれが誰か知らないでしょうけど」

「それではあなたは芸能界に入りたいというわけなのですね」

 佐島がたずねる。

「はい。あたしはアイドルをやってそれから女優になりたいんです。」