「だから謝ってるじゃないですか! 『すみません』て。先生はあたしにこれ以上何を言わせたいんですか!」

 理香が悪びれない態度で言い返す。

「お黙りなさい! あなたは誰にそんな口をきいているの! それが謝罪する者の態度ですか!」

「だったら私、退学すればいいんでしょう? あたし、もう学校やめますから、校則なんてもう関係ありませんから、いいかげん私を解放してくれませんか」

 理香はついにずっと言いたかったことを言い放った。

「退学するですって?」

 佐島は一瞬口をつぐんだ後、生徒にたずねた。この娘は一体何を言い出すのだろうかと思った。

「気は確か? あなたは中等部から四年あまりここで続けてきた学業をそんなつまらないことでふいにするんですか」

「別に構いませんけど。あたし、将来お見合い結婚したいとは全然思ってませんから、ここの勉強なんて続けなくてもいいんです」

「では、何故この学園に入学したのですか」

「親に言われたからに決まってるでしょ」

 理香はそう言ってそっぽを向く。理香だけではない。ここの少女たちは貧しい家の家計を助けるために、親の意向でこの学園に入ってきた者が多い。 

「吉葉さん。あなたは今、本校をやめると言いましたけど、やめた後行く宛てはあるのですか。お母様の所には身を寄せられないでしょう? お家の話を少し聞きましたよ。あなたはお母様が同居している方と上手くやっていけるのですか」

 理香の母親が新しい内縁の夫と暮らしていることを佐島は知っていた。理香の母親は六つ年下の配管工とアパートで同居している。その男とこの鼻っ柱の強い娘が折り合って生活できるとは佐島には思えない。 

「家には帰りません。でも、住む場所はあります」

「あなた、まさか家出をする気?」

 さしもの佐島も少し焦る。時々メディアで取り上げられる、夜の街を徘徊する家出少女の姿が佐島の脳裏に思い浮かんだ。

「実家には戻らないだけです。あたし、職員寮に住むんです。母だってきっと私の考えに賛成しますよ」

「職員寮ってあなた、今時どこの企業が高校中退の少女を雇うというのですか。第一、あなたはまだ就職活動だってしていないでしょう」