「本校始まって以来の不祥事です。親御さんからもらった大切な体に傷をつけるなんて、あなたは一体何を考えているのですか」

「ああ、これですね。すみません」

 そう言って理香は自分の耳たぶを可憐な指でつまむ。

 先週、理香はライターの火で消毒した針で自分の耳たぶに穴を開けた。あの時は耳たぶが痛くてたまらなかったが、今は痛みが落ち着いていたところだった。寝る時につけていたシルバーのピアスのお陰、だいぶ穴も安定してきたみたいだ。もちろん、見つかるといけないから、学校ではピアスは外している。

「ピアスをすることは本校の校則で禁じられていることです」

「あ、そうだったんですか。それは知りませんでした」 

 理香が淡々とした口調で返す。

「生徒手帳に載っています」

「そうだったんですか。うちの学校って校則多すぎるから全部は知りませんでした」

「あなたは入学時にそれを全部読むべきでした。生徒には入学時に本校の校則を了解した上で入学してもらっています。それが嫌ならよその学校に行けば良いのです」

「……行けるもんなら行きたいわよ」

 理香がぼそりとつぶやいた。

「何ですって! あなたは自分の立場をわきまえなさい! あなたは今、注意を受けているのよ!」

 学長室に怒声が飛ぶ。
 佐島が声を荒げることは滅多にない。学生たちは彼女ににらみつけられるだけで大抵大人しくなってしまうのだ。

 ところがこの吉葉という高等部生は反省の欠片もない態度で佐島の前に立っている。彼女は入学当初から落ち着きのない生徒で度々クラス担任や学年主任を困らせてきた。門限を破ったり、学外の男子高校生と出歩いたり、寮の掃除当番をさぼったりしては、何度も謹慎をくらってきたカメリア始まって以来の問題児である。そしてついにこの度、中等部から短期大学部全体を統括する佐島のもとへ送り込まれたきた。