「迎えにきたっていうけど、今まであなたは音信不通だったわ。あなたが何も連絡をよこさなかったものだから私のことを捨てたのだと思ったわ」

「手紙は書いたよ。電話もした。携帯の番号やメールアドレスだって、知ってたら連絡してたよ。ずっと君に連絡を取ろうとしていたけど、ある時から君は全く応答してくれなくなったんだ」

 実家に戻ってきたばかりの頃、幸恵は携帯電話を所有する経済的な余裕がなかった。

「あなたが私に連絡していたですって? でも、ここ数年間あなたから手紙を受け取ったことなんてないわ。まさか……」

 幸恵は傍らに同席していた母親に目を向ける。

「お母さん。まさか彼からの手紙を隠していたんじゃないでしょうね!」

 幸恵は横でうなだれている母親に詰問する。

「ごめんよ。お父さんが『あいつの手紙なんか幸恵に見せるな』って言うんだよ。あの人はせっかく上手くいってるあんたを東京の男にさらわれたくなかったんだよ」

 母親が弱々しい声で弁解する。地元の実業家に見込まれている一家の稼ぎ頭を手放したくないがために、両親は娘の恋人からの連絡を一切シャットアウトしていた。