「言っておくが俺は公私を混同したりはしないぜ。俺はビジネスはビジネスだと割り切っている。あんたは我が社の秘書として雇われるんだからその仕事をしてりゃいいんだ。まあ、聞きなよ。俺にはすでに一人秘書をやってくれている男がいるんだ。その男がいれば大抵の秘書業務は片付くが、新たにあんたを雇い入れたいと思ったのはあんたに広報的な役目も果たしてもらいたいからさ。我が社のイメージアップにつながるような、見目がよろしい才媛に対外窓口のような役割も演じてほしいんだ。例えば、昔あの某IT企業の社長に付いてた女性秘書みたいな存在を求めているのさ」

 某企業の社長とは、ずっと昔に事件を起こした小太りの名物社長のことだろう。

「何故、私のような者をお選びになったのですか。県内には就職活動中の女子大生や中途で採用できそうな有能な若い女性がいっぱいいるではありませんか」

「そんなことはない。この町にいるのはイモ姉ちゃんばかりだ。根津さんみたいな逸材はこの田舎町にゃ皆無に等しい。あんたはさすがあの名門カメリア女学園にいただけあって、ルックスは抜群だし、所作も話の仕方も洗練されているよ。あの店であんたに出会った時は掃き溜めに鶴を見出したような気がしたね。あんたこそ我が社のアイコンに相応しい。あんたには秘書の中川について仕事を覚えながら、広報の勉強もしてほしい」

 権藤は情熱的に説得する。きっと彼はこういう口ぶりで多くの人間を口説き落としてきたのだろう。

「社長。私などのことをそんなにも気に入ってくださるのはありがたいかぎりなのですが、こういうことはすぐに決められることではありません。今しばらく家で考えさせていただいてもよろしいでしょうか」
「それはもっともだ。じゃあこの話を四、五日考えてみてくれ。いい返事がくるのを待ってるぜ」