My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ



戦の中にいると、こういう話には若干時差が生じる

だから、こういった酒場は格好の情報収集の場所だったりするんだ




「いくつも国が滅ぼされたみたいだよ」

「滅ぼされた? どこの国に」




首を傾げる俺の姿を見て、面白そうにニタッと唇を三日月形に歪めた女性

そして顔を近づけて、まるで内緒話でもする様に小さな声で言った




「ガスパルの国の奴らだ」

「ガスパル...」

「そうさ。あの竜族を滅ぼした暗黒の国だ」




ガスパル――



ここから、遥か北にある国

谷底にある、光の射さない暗黒の国

その国に入った者で帰ってきた者はいない



憎しみと恐怖に満ちた国だ

そして、あの竜族を滅ぼしたとして

今、最も恐れられている