戦の中にいると、こういう話には若干時差が生じる
だから、こういった酒場は格好の情報収集の場所だったりするんだ
「いくつも国が滅ぼされたみたいだよ」
「滅ぼされた? どこの国に」
首を傾げる俺の姿を見て、面白そうにニタッと唇を三日月形に歪めた女性
そして顔を近づけて、まるで内緒話でもする様に小さな声で言った
「ガスパルの国の奴らだ」
「ガスパル...」
「そうさ。あの竜族を滅ぼした暗黒の国だ」
ガスパル――
ここから、遥か北にある国
谷底にある、光の射さない暗黒の国
その国に入った者で帰ってきた者はいない
憎しみと恐怖に満ちた国だ
そして、あの竜族を滅ぼしたとして
今、最も恐れられている



