My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ



「日が落ちると、民は怖がって外には出ません。姫様もまた、常に命を狙われ容易に城の外には出られないのです」

「――」

「それがまた、姫様の心を蝕んでいるのです」

「騎士達は?」




眉間に皺を寄せた俺に、悲しそうに首を横に振るグレイス




「きりがないのです」

「どういう事?」

「追い詰めても追い詰めても、彼らはやってくる」




深い森に覆われた、この国

大きな木々は、その姿を隠すには格好の場所




「この森の深さが、逆に仇に」




そう言った俺の言葉に同意する様に、コクリと頷いたグレイス

それでも、きゅっと口を結んでから柔らかく笑った




「それでも、もうすぐです。ガスパルの残党も数えるほどになりました。――あと、少しです。元のアネモスに戻るのは」



まるで自分に言い聞かせる様にそう言って、俺の言葉も聞かずに歩き出したグレイス

そして、目の前にそびえる城を見つめてから



「帰りましょう」




静かに、そう言った